第6回更新日誌のお焚き上げ
なにこれ
- 零錆戦線 の第6回向けに書いていた日誌
- 更新延期に伴い内容を一新する状況になりそうだけれど、なんかもったいなかったので置いておくもの
- 僚機に怒られたら消す
前提:領域通信
日誌
......... connection closed.
「いや『合言葉は外した。』ではないんだよ。」
彼は【領域通信】を閉じるなり真顔でひとりごちた。
いつもの報告目的の通信――「報告」とは回避行為であり、情報を隠すメリットがない場合、あらゆる行動は開示しておいた方が不測の厄介ごとは避けやすくなる……というのが彼の主張であり、存外こまめに通信を行っている理由である――を行うために【領域通信】を開いた彼の耳に飛び込んできた僚機の言葉を心中で反芻する。
わざわざあの場所で申告した以上は、事実として合言葉は外されている、と見るべきだろう。
特に確認はしていないが。
――いやでも、そんな面倒なことは書いていなかったかもしれないし。
発端となるメールには厄介ごとの気配の情報が記載されていたような気もするが、見間違いかもしれない。
一縷の+希望+を記憶違いに託してメールボックスを開く。
「驚異が迫っていますか」
「……いますかぁあああそっかあああああ」
もう表題からして厄介の気配しかなかったので、彼は叫びと呻きのちょうど中間くらいの悲鳴を絞り出しながら、手だけを習慣のように動かしてコマンドをタイプして、メールを展開する。
残念ながら、メールにはだいたい彼の記憶どおりの面倒ごとの気配が記されていた。
……狭苦しい操縦棺の天井を仰ごうとする。
しかしてフィルタースーツのヘルメットが座席の頭部に当たり、天井以前のモニター上部で視界を留められた。
【傷跡の話】
よどんだ目で文字列をなぞりながら、黙考数十秒。
しばらくして、再び手だけを動かした。
>協賛を検討していたコモン・テイル・ストアへ投げようとしていたメッセージを破棄。
>合言葉を空文字列でアップデート。
予定を覆すのは指先ひとつ、数秒で事足りるという事実に、なんとなく暗澹とした気分になりながら、彼は肩を落とした。
「いや……まあね。見返りはあるっつってるし、ニフジのやつのおこぼれに預かれんなら、それはそれでいいんじゃねえかな」
「ジャンク連中が都合よくおとなしくしてくれるとも限らねえし」
あとは彼自身を納得させることさえ出来れば、なにひとつとして問題にはならないわけであった。